託宣が下りました。
けっ、と行儀悪く舌を鳴らす院長先生。
わたくしとしては、町長の娘であったころも修道女となってからも、こういう人とはあまり関わることがなかったので、お付き合いの仕方に困ってしまいます。
様子を見に来たはいいものの、どうしてよいか分からず立ち往生していると、院長先生の声がかかりました。
「あんたは何しにきたの。子どもらの世話は?」
「その、マリアンヌさんが先生の様子を見てきてほしいと」
「ああ……。悪かったわね、いつまでもそっちにいかないで」
机に手紙を投げ出し、ため息まじりに先生は仰いました。「ちょっと、この手紙の扱いに難渋してただけさ」
「その手紙はどなたからの?」
「王宮」
わたくしは息を呑みました。思わず一歩前に出て、手紙を凝視してしまいます。
「ど、どのような内容の?」
「……近く、勇者アレス一行を王宮に招くんだと」
院長先生は、指先でこつこつと机を叩きました。「で、その場に子どもたちを呼びたいと言ってる。要は凱旋式のときと同じだ」
凱旋式のときに――。
勇者様をたたえるため呼び集められたのは子どもたちでした。それも、いわゆる孤児が大半だったのだそうです。
どういった意図があったのか、わたくしには分かりません。英雄の偉業をたたえるには、魔物の一番の被害者とも言える存在を呼ぶのがふさわしいと考えたのでしょうか。
嫌な予感が忍び寄ってきます。王宮に、勇者様を呼ぶ。子どもたちを集めるからにはただの対話であるわけがない。まさか――
まさか。
「もう、送り出すのですか? 勇者様たちを?」
院長先生はぴくりと片眉を跳ね上げました。
――その目。
一瞬で喉が干上がりました。唾を飲み込もうとして、痛みだけが走ります。
「早すぎます!」
「たぶんとっくに魔物たちの不穏な動きは感知していたんだろうね、王宮は。それこそあの託宣が下る前にね。――何せ十年も魔王軍と戦ってきていたんだ。魔王が倒されてからも……気は抜いていなかったんだろう」
褒めるところなんだろうけどさ、と院長先生は皮肉げな笑みを浮かべます。
「―――」
わたくしは唇を噛みました。
魔王復活の託宣があろうがなかろうが、魔物が不穏な動きをしているのを王宮がすでに掴んでいるというのなら、それは喜ばしいことです。
けれど――送り出されるのは勇者様ご一行。