託宣が下りました。
王宮の命とあらば断れません。いえ――他ならぬ国のために、アレス様たちが断るわけがありません。
今日騎士の家に来る予定のお客さまの用事は、このことだったのでしょうか?
(彼がもう行ってしまう……?)
全身の血という血が、すべて落ちていってしまうような気がしました。
『俺が出て行くことになる前に』
ベッドの上で囁かれた言葉。
思い返せば狂おしいほどに、重い言葉。
(行かないで。まだ――向き合えていないのに)
あんなつまらない嫉妬で、どうして逃げてきてしまったのでしょう。今さらながらに自分の浅はかさが呪わしい。
うなだれたわたくしをまるで気にする様子もなく、院長先生は、コツ、と大きく机を叩きました。
「――子どもたちは行かせられない」
一瞬、意味が分かりませんでした。
しかし、その言葉を上書きするかのように――。
院長先生は手紙を真っ二つに裂きました。
「……!」
わたくしは驚いて顔を上げました。破り裂いた手紙を適当に放る院長先生をまじまじと見て、
「なぜですか? 子どもたちがアレス様たちと接する機会は素晴らしいもので」
「魔王軍に先手を打たれて、また魔物が乱入しないとも限らないだろう」
「そ――そういう危険性なら、今はもう普通に町中にいても同じことですし」
「そっちの話はしていないんだよ」
うるさそうに先生は手を払います。「あんた、凱旋式で何があったか知らないんだね」
「……魔物を騎士が打ち倒したのではないのですか?」
院長先生は暗い笑みを浮かべました。
「そうさ、騎士ヴァイスが薙ぎ払った。身の丈人間の倍もある獣型の魔物と、人型の魔物と。容赦なく叩き斬った。子どもたちの目の前で!」
「―――」
しんと部屋が静まり返りました。
わたくしは言葉を失いました。院長先生は、ひとつ、ため息をついて。
「……子どもたちにとって、楽しいだけのことだったと思う? 喜んだ子はたしかに多かったよ。英雄の勇ましさは子どもも大人も問わず熱狂させた。場は大興奮だった。それはたしかだ」
……けれどね、
「同じくらい多かったんだ。泣いて英雄を恐がった子どもたちの数は――」