託宣が下りました。
「子どもたちは敏感だよ。知らず本質を察してしまうことがある」
破り裂き、机にばらまかれた紙片を、院長先生の視線がうつろに撫でていきます。
「私もその場にいた。恐ろしかった。英雄の剣が、魔物よりずっと」
「――そんな」
脳裏に蘇ったのは、巨大スライムを両断した騎士の迷いのない太刀筋――。
あのときの敵がもしもスライムではなく、獣や人に近い姿をしたものだったら……?
それを目の当たりにしたとき、わたくしは平静でいられるのでしょうか。修道女として。人と……して。
「彼らは――ハンターは、国の、私たちの恩人さ。彼らがいなくては国はもっと恐ろしいことになる。分かっちゃいるが、私にはどうしても彼らが子どもたちの教育にいい存在には思えない」
だからせめてと、先生は声のトーンを落としました。
「――せめて、子どもたちがもっと思考力のつく年齢に達してからにしたいんだよ。影響を受けるも受けないも、自ら選べるようになってから」
それはまるで、生まれたばかりの花を包みこむような声。
彼女はまぎれもなく子どもたちの保護者。脈絡もなくそう思います。
わたくしは少しだけ笑みをこぼしました。
「何がおかしい?」
「――いえ」
ごめんなさい、と小さく頭を下げながら、
「意外でした。院長先生がそんな消極的なことを仰るなんて」
「悪いかね。世の中刺激が多すぎて、守りに徹するので精一杯なんだよ」
怒っている様子はありません。たぶん、彼女自身も自覚しているのです。
だから、次にわたくしの言うことも分かっているはず。それでもあえて、わたくしは口を開きました。
「先生。アレス様たちは決して悪人ではありません。……それが彼らの選んだ役割であるだけです」
例えば、肉を得るためには動物を手にかける者が必ずいなくてはいけないように。
彼らが悪いわけではない。彼らが冷酷なわけでは決してない――。
そんな、当たり前のこと。
「騎士はその役割を忠実に、まっすぐにこなしただけでしょう。ただそれだけのことです。子どもたちにもきっと――分かると思います」
窓を閉め切った部屋は、静かでした。自分の声が、どこか遠くの世界で響いているように聞こえます。