託宣が下りました。
「簡単に言うね?」
「そんなつもりはないのですが。そうですね、それでは子どもたちを、ふだんの騎士とも深くお付き合いさせてみてはどうでしょう? 幸いこの孤児院は騎士のお屋敷とそれほど遠くありませんし、騎士は子どもが好きですし、喜んでやってくれるのじゃないかと――」
「ふだんから素行不良で有名なあの男と?」
「あ」
思わず口を抑えると、院長先生は「ぶっ」とふき出しました。
「あはは! ほんと、おかしなことを言う女だねえあんた」
椅子の背もたれにもたれてひとしきり笑ったあとにこぼれたため息。それはどこか、張り詰めていたものを吐き出すような優しい呼吸でした。
「……そうだね。悪いほうにばかり考えてはいけないね」
立ち上がった先生は、破った手紙を見下ろしながら言いました。
「子どもたちを行かせるかは……、子どもたちの様子を見てから考えるよ。それと」
ふっと顔を上げ、「騎士ヴァイスとふだんから交流か。面白いかもしれないね――ねえあんた、騎士に話をつけてくれない?」
「へ?」
「何て顔をするんだよ。その口ぶりからすると騎士と親しいんだろう、ちょっとくらい話をしてくれてもいいじゃないか」
どうせなら騎士だけじゃなく勇者もいるといいね、とどんどん乗り気になっていく院長先生。
わたくしは慌てて答えました。
「わ、わたくしが頼んだところで聞いてくれるとは限りませんが」
と言うより、騎士は元から他の孤児院と交流があるような人ですから、わざわざわたくしを通さなくてもいい気がします。
仮にわたくしが頼んだとして――
彼は話を聞いてくれるのでしょうか?
わたくしを追ってくれていた、少し前までならともかく……今は?
逃げてきてしまったわたくしを、怒っているかもしれない。そうなったら頼みごとどころではありません。
(この孤児院の子と騎士を会わせてみたい)
無神経で素行不良。それでも、子どもたちと騎士の取り合わせはふしぎと違和感がありません。
アレス様やカイ様のことも、ぜひ子どもたちに知ってほしい(カイ様は逃げるかもしれませんが)。
英雄は決して武器をふるうだけの存在ではないと――
知ってほしい。わたくしがこの数ヶ月で知ったのと同じように。