託宣が下りました。
廊下からいい匂いがただよってきました。夕食が完成に近づいているようです。
「そろそろ行こうか。うちのご飯はおいしいよ」
「わたくしも食べてよいのですか?」
「ここまで来てダメなわけがないだろう? 子どもたちの面倒をみてくれた礼だよ」
院長先生はわたくしの肩をぽんぽんと叩き、「どうせなら泊まっていくといいさ。――ん?」
ふと戸口に子どもが一人やってきて、「院長せんせーい」と声を弾ませました。
「お客さまでーす!」
「客? また郵便かい?」
「違いまーす! アルテナ先生に会いたいって!」
「わたくしに?」
「すっごいお客さまでーす!!」
報告の子は頬を真っ赤にして飛び跳ねんばかり。わたくしは院長先生と顔を見合わせました。すごい客とは、誰――?
「――巫女!」
その声を聞いた瞬間、心臓が飛び出しそうなほどに跳ねました。
孤児院の玄関には、応対に出たらしき女性――この方ももちろん先生です――が困惑顔で立っています。その前で、ずぶ濡れのマントを手に所在なげにしている彼。
わたくしを見つけるなり、満面を輝かせた彼――。
「き、騎士……」
「良かった! 本当にここにいたんだな……!」
ばたばたとこちらまでやってきて、わたくしの隣にいる院長先生にお構いなく大きく両手を広げます。
抱きしめられる――思わず身を縮め目をつぶったわたくしは、けれどいつまで経っても圧迫感がやってこないことに気づき、そろそろと瞼を上げました。
目の前で騎士が、何かをためらうような顔をしていました。空中に広げた手が役目を見つけられずにふらふらと下がっていきます。
「おいおい、噂をすればなんとやらじゃないかい」
院長先生が呆れ顔で言いました。その肘がつんつんとわたくしをつっついて、わたくしはいたたまれず騎士に問いました。
「ど、どうしてここが?」
「マリアンヌから報せが来た。迎えにこいと――良かった、客との面会が終わったらしらみつぶしに捜し回るつもりだったんだ。本当に良かった」
「………」
騎士はわたくしの前で、大きく息をつきました。マリアンヌさんがしばらく席を外していたのはこのせいだったのです。
(捜そうと――してくれていたのね)
ただそれだけのことが嬉しくて、顔がほころぶのをとめられません。