託宣が下りました。

「ごめんなさい、急に出てきたりして……」
「ん? 構わんぞ、意味はさっぱり分からなかったが、俺の何かが気にくわなかったんだろう? それが解消されるまでは謝る必要はない」

 けろっとそんなことを言う騎士。
 怒ってない――。それどころか、いったいどんな解釈の仕方でしょうか。呆れを通り越して笑ってしまいます。

 だが理由は教えてくれよ、と騎士は真面目な声で言いました。

「俺にはあなたの心は読めんのだ。……頼むから」

 真剣な目がわたくしを捕らえます。
 彼のふるう剣と同じ。迷いなく、強い。

 ああ本当に。この人はこんなにもまっすぐわたくしを見ようとしてくれている。
 実際にわたくしを理解してくれているのかどうかはともかく、わたくしから逃げたりなんかしない。

 夕焼けの瞳の美しさ。それを思い出してしまえば、もう目はそらせない――

「……ちょっと。人んちでいつまでも見つめ合ってるんじゃないよ」

 院長先生に再度肘でつつかれて、わたくしははっと我に返りました。

 慌てて視線を動かすと、騎士の応対をしていたもう一人の先生が恥ずかしげに目をそらしています。

 顔が燃え上がるように熱くなるのを感じました。「と、とりあえず!」と声を上げ、

「院長先生、彼に例の話をしてみますから――その、席を外しても?」
「いーけどね。あいにく部屋はさっきの部屋しか開いてないよ。子どもたちに聞かせられないような話はしないように」
「だだだ大丈夫ですっ」
「……ほんとうかねえ」

 わたくしは咳払いをしてごまかしました。ああ、先生の視線が痛い。



 騎士と二人で院長室へ入り、いつもなら開けっ放しのドアをそっと閉めると、

「ここはたしか修道院とは関係を絶っている孤児院だったな?」

 騎士が振り返って言いました。「なるほど。それなら巫女のことも広まらないな。助かった」

「マリアンヌさんのおかげです」
「そうだなあ」

 うなずく騎士に、わたくしは少しだけむっとして――それからすぐに反省しました。やきもちをやいている場合ではありません。

 改めて、彼を見つめます。
 髪や服の先が濡れています。この雨の中、おそらく馬で来たのでしょうが、それが彼が急いできてくれたことのしるしに思えて胸の奥がじんと熱くなりました。

「……お客さまとの面会は、無事に終わったのですか?」

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