託宣が下りました。
王女様と結婚する気がなく――わたくしを利用しているのでもないのなら、もっと堂々としていればいいだけなのに。
「疑ってしまってごめんなさい」
できるだけ深刻になりすぎないように言いながら、そっと騎士の表情をうかがいます。
騎士はなぜか、感極まったような顔をしました。
「巫女! それが分かるほど俺のことを見てくれるようになったんだな……!」
「あう」
今までろくに向き合おうとしていなかったことを指摘された気がして、わたくしはうめきました。それを言われるとつらいです。
「で、ではそこは否定しないのですね」
「否定はできんな。あなたの前で姫の名前は出されたくなかった。まったくウォルダートめ、気が利かん」
わざとやっているのではあるまいなヤツは家に帰ったらみていろ、などと毒づいた騎士は、わたくしの視線に気づいてこほんと咳払いをしました。
「――実は先日、王宮に乗り込んでしまってな」
「え……」
「思い切り姫を怒鳴りつけてしまった。臣下たちの前で」
そう言って頭をかく騎士。
わたくしは目を丸くしました。
「お、王女様を叱ったのですか……?」
いくら騎士が英雄とはいえ、とんでもない話です。おまけに臣下の前でだなんて、姫の体面はどうなるのでしょう。
騎士はふてくされたように唇をとがらせました。
「だってそうだろう。あなたに対する仕打ちはしゃれにならんぞ? 俺が止めるしかないと思って」
「――気づいていたのですか」
「カイの様子があまりにおかしかったんでな、問い詰めた」
騎士に迫られあわてふためくカイ様の様子が目に浮かびます。ああカイ様、気苦労をかけてごめんなさい。
後悔などしていない。騎士はきっぱりと言いました。
「していないが……あなたは絶対に怒るだろうと思った」
急に肩を落として、「だから、知られたくなかった。……すまん」
しゅんと目をふせる彼――今まで見たこともないほど神妙に。
(わたくしに怒られるのがいやで……姫様の名前に動揺していたの?)
まさか。そんな理由で。
……本当に、そんな理由で。
(全部、わたくしの早とちりだった――)
ああ。
一瞬で、世界の色が変わるようでした。わたくしの不安に思ったようなことは、どこにもなかったです。
(どうして信じられなかったの)
今となっては不思議でしかたない。そんな自分の現金ささえ、今はただ嬉しい。