託宣が下りました。

 彼のことを、少しは知っているこの先の未来なら。

 ……これもめぐりあわせなのでしょう。だったらその幸運を、わたくしは決して手放したくない。

 騎士の吐息が唇に触れました。
 至近距離で見る夕焼けの瞳。……そんなに切なそうな顔をしないで。

「あなたを早く俺のものにしたい。割と頻繁にその衝動に負けそうなんだが、恐くないのか?」
「……聞かないでください、そんなこと」

 ――彼を受け入れること。子どもを作ること。

 その覚悟ができているのかと言われたら、実のところ、まだ少し時間が足りないのですが――。
 ひとつだけ、分かっていることがあるのです。

「恐くなどありませんから。ただ……も、もう少しゆっくりで、お願いしますね」

 迷っているのは、修道女としての自分を失うのが恐かったから。
 ――彼自身が恐かったわけでは、ないのだから。

 事実彼の出立が近いと分かった今、心は傾いているのです。もう全部彼に投げ出してしまおうか――。

 何もないまま離れてしまうよりも、いっそ。

「ゆっくりならいいのかアルテナ!?」
「こ、ここで触ろうとしないでっ!」



 その日、院長先生のご厚意で騎士も夕食を一緒に食べることになり――

 ありがたいことに子どもたちは大喜びで、結局騎士もわたくしとともに、この孤児院に泊まることになりました。

 ――元々英雄の姿に熱狂していた子はもちろん、凱旋式で泣いてしまったはずの子どもさえ騎士になついてくれた。子どもたちの柔軟性を、院長先生は笑って受け止めました。

「やっぱり行かせてもいいかもしれないね、出立式に」

 凱旋式で、真に傷ついた子どもがいないわけではない。でも悪いことばかりではないのなら。
 その可能性に賭けてみてもいい――と。



 思い切ってみれば、よい方向で前に進めることもある。
 変化に富んだ子どもたちを見るにつけ、不安は解放されていきました。

(修道女を卒業しても……納得できる道があるかもしれない)

 勇者様たちの出立までに、騎士と生きる道のことを、もっと真剣に考えてみよう。迷えることさえ、今は幸福に感じるのだから。

 未来は思うよりずっと、明るいのかもしれない――。

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