託宣が下りました。
番外編:アレができるまで
「腹巻きを作ってくれ、ヒューイ!」
ヴァイス・フォーライクが突然そんなことを言い出したのは、サンミリオンに発生した魔物を討伐しにいくと決まったその夜のことだった。
場所は酒場。周囲の町人たちが酒の勢いで大騒ぎしているその一隅で、勇者アレス一行は今後の相談をしていたのだ。
(また何か言い出したぞ……)
一番隅の席で、カイ・ロックハートは身を縮めながらちびちびと果実ジュースを飲んでいた。
巫女アルテナの馬車についてサンミリオンに到着した翌日に、カイは転移魔術を利用して一人王都に帰ってきていた。そうしてアレスたちと合流し、今後の方針を相談したのだ。
と言ってもすでに結論は出たあとで、この酒場に来たのは打ち上げのようなものである。実際、仲間のうち女性二人はついてきていない。
今日も元気なヴァイスはテーブルにのっかり――宴もたけなわ状態の酒場なので誰も注意しない――ヒューイ・グロースの顔にくっつきそうなほど顔を近づけ迫っている。
「頼む、ヒューイ」
「死ねやボケカス」
ヒューイは顔を引いて毒づいた。