託宣が下りました。

 ヴァイスは意味が分かっていないのか、首をかしげるだけだ。だが。

 カイは青ざめた。このままではアルテナが苦労する未来しか見えない。どうしよう、何とかしてやれないのだろうか?

「とにかくいいんだな! よし、カイ!」

 ぐりんとヴァイスがこちらを向いた。「お前にも頼むぞ! いい術をかけてやってくれ」

「え?」
「話を聞いていたか? 術だ術」

 腹巻きに、術をかける。そう言えばついさっき、そんなことを言っていたのような……。

(え、それ僕がやるの?)

 ヴァイスの目がきらきら輝いている。この目をするとき、ヴァイスはふしぎと相手に否と言わせない。夕日色をしたその目に捕らえられながら、カイは自分が逃げられないことを悟った。そう、いつだってこの騎士には敵わない。

 せめて。
 せめてアルテナのためにできることは、自分の持てる最高の術を腹巻きにかけてやるだけ――。


 もちろんこのときのカイは、その腹巻きがのちに思いがけない形で役に立つことなど、知るよしもない。



(終わり)

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