託宣が下りました。
アンナ様の目線がドアの向こうへと向かいます。そこに、騎士がいるはずでした。
「……正式に結婚もできないまま魔王討伐に出るのなら、わたくしを気楽な場所に帰したいと、彼はそう言うんです」
それを聞いたとき、わたくしはとっさに『違うんです』と言いかけ――言葉を呑み込みました。
何が違う? 彼がいないまま彼の家に留まるわけにはいかない。
騎士の実家も思ったよりずっと居心地がよいけれど、そこに留まるのも何か違う。かといってすごすご自分の実家に帰るのも情けない。だったら……
修道院に戻れるならそれが一番いいのは、間違いないとも思うのに。
好奇の視線にさらされるのも修行の一環と思えばそれでいい。成したかった生き方ができる。
なのに――。
「……でももうごまかせません。わたくしの心は決まってしまっている。エリシャヴェーラ様と話してそれがよく分かりました」
あまりにも身分が違いすぎる一国の王女相手に、負けられないと思ってしまった。
彼の心を――ないがしろにするのは許せないと。
何より王女様と対等でいたいと思った、そのときにはすでに……決まっていたのです。
わたくしはもう、一介の修道女には戻れない。戻りたくない。