託宣が下りました。
「こいつはどうするか」
 ヴァイスは自分が担いだイノシシを見やった。「孤児院にでもやってくるか」
「自分で食わないのか」
「巫女にやることしか考えてなかったんでな。興がそがれた」

 よし行くかとさくさく歩き出すヴァイス。アレスは何となくその後ろをついていく。

 背の高さも体格もどっこいどっこいの二人だが、ヴァイスのほうが大柄に見えるだろう。何せヴァイスは常に威風堂々としている。何をどう考えたらこんなに自信満々でいられるのか、アレスにはまったく分からない。

 二人は幼なじみだ。気づいたときから一緒にいるが……まったく分からない。
 だから、ヴァイスにつきまとわれる巫女の気持ちも少しは分かる気がしている。だが……

(申し訳ない、巫女殿。俺はこの結婚に反対はできない)

 ヴァイスの行為はたしかに唐突だ。巫女にしてみればヴァイスの気持ちが信じられるはずもないし、そもそも鬱陶しいことこの上ないだろう。

 それでも。

 早朝の風は心地よい。ヴァイスの担ぐイノシシを見ながら、「本当にイノシシ汁をヴァイスと巫女殿が一緒に食ったなら――」とアレスは考えた。

(そうしたら、少しは巫女殿の考えも動いたかもしれない)

 興がそがれた。そう言ったあのとき、ヴァイスの腹の虫が鳴った。
 けれど孤児院に向かう足に迷いはない。

 そんな男だと、かの巫女が知ってくれたなら、あるいは……

(番外編:勇者の物思い/終わり)
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