託宣が下りました。
最終章

第一部 貴方に、


「では、行ってくる。――今日も気をつけるんだぞ、アルテナ」

 そう言って騎士ヴァイスはわたくしを抱き寄せ、額に口づけを落とします。

「はい、いってらっしゃいませ。アレス様たちによろしくお伝えください」
 わたくしは少し照れながら彼の腕の中で言いました。

 ――彼の家で過ごすようになって早二週間。彼は出かけるたびにこの調子ですが、いまだに慣れません。
 や、やっぱり修道女としては、はしたないとも思ってしまいますし。

 けれどもう、拒む理由もないのです――。

 外へ見送りに出ると、彼は馬にまたがりました。これからアレス様たち勇者ご一行の皆さんと、色々な相談をしにいくそうです。

 と言っても最近ではもっぱら騎士とヒューイ様――罠解除師(トラップマスター)で裁縫師でもある彼との口論で時間が過ぎてしまうとのこと。

「……ヴァイス様。あまりヒューイ様を困らせないであげてくださいね。わたくしは、平気ですから」
「あなたがよくても俺がよくない。何が何でも式を挙げてから出立する」

 わたくしは頬が熱くなるのを感じました。そう――騎士はわたくしとの結婚の儀を終えてから魔王討伐に出たいと、そう主張しているようなのです。

 と言っても、本格的な式となると準備に数ヶ月かかります。さすがにそこまで待つわけにはいきませんから、せめて仮の儀式のようなものを行いたいと――そう騎士は言うのですが。

 そのときのための騎士の礼服とわたくしのドレスを、騎士は以前の宣言通り、ヒューイ様にお願いしたのだそうです。

< 367 / 485 >

この作品をシェア

pagetop