託宣が下りました。
 ひと月前、晩夏の星祭りの日。

 わたくしは初めて祭壇にのぼりました。その数日前、アンナ様に『星の巫女として認める』と告げられたときの、わたくしの気持ちはお分かりでしょう。それこそ、天にも昇る心地でした。

 けれど、浮かれてはいけないと自分を叱咤して精進に望んだのです。身を清め、食事を制限し、一日の大半を祈りに費やし……

 そして当日。

 あれほど気合いの入っていた日に、あんな託宣を自分で下すことになるなど、わたくしだって想像もつかなかったのです。


「あの……失礼ですけど」

 一通りの話を終えたところで、レイリアさんはわたくしの顔をおずおずと見ました。

「? なんでしょう?」
「……アルテナ様は、このまま星の巫女をお続けになるのですか?」
「―――」

 わたくしは絶句しました。胸を、見えないナイフでつかれたような心地でした。
 シェーラが慌てて、

「そりゃあ続けるわよ。やめる理由がないもの」
「はあ」
 レイリアさんは小さくうなずきました。「図太いんですね、アルテナ様は」

 これに怒ったのはシェーラでした。バン! と机を叩き、声を張り上げます。

「ちょっと、失礼でしょう! そりゃあアルテナはこう見えてけっこう図太いけど、あなたに言われる筋合いはないわ!」
「……全然フォローになってないわよシェーラ……」

 頭痛がしてきました。たぶんシェーラはまじめに言っているのでしょうが。

 レイリアさんは納得していないようです。ということは……おそらくこの子は、託宣の日に起こった出来事を知っているのでしょう。

 星の巫女たるもの清く正しく。不純異性交遊などもってのほか。

 ……あの日、無理矢理とは言え唇を奪われてしまったわたくしは、巫女の資格を失っています。

 大げさではありません。御声拝受に臨んでも、星の声が聞こえなくなってしまったのです。最初こそ混乱しているからだと自分を励ましていたのですが、ひと月も続いてしまうと……もう認めるしかありません。

 けれどわたくしは――騎士と結婚するつもりはないにしても――この修道院を出て行くことを考えませんでした。星の巫女ではなくなっても、修道女としてここにいることはできるのですから、そこは問題ありません。

 ……周囲の目がだんだん冷たくなっていくことを除けば。
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