託宣が下りました。
 怒るシェーラ。まるで動じないレイリアさん。新人なのに彼女のほうがよほど図太……いえ精神的に強いなと思いながら、わたくしは二人を仲裁しました。

 悲しいけれど、レイリアさんの言いたいことはもっともなのです。このまま平気な顔で修道院に居残るほうが、よほど異常だということ――


 午後三時。個人学習の時間が終わり休憩に入るころ、わたくしは呼び止められました。

「アルテナ様。お客さまです」
「騎士ヴァイスなら追い返して」
「違います、魔術師カイ様です」

 わたくしは目を丸くしました。

 幸い今の時間、レイリアさんにも自主学習をお願いしているので、お客さまに会う時間はあります。修道院の前庭でお待ちだと聞き、わたくしは急いで向かいました。

 建物を足早に飛び出し広い前庭を見渡しますが、人がいません。
 わたくしは慌てませんでした。適当な場所に立ち、呼びかけてみます。

「カイ様」

 するとどこからか、か細い声が聞こえてきました。

「……お姉さん……」

 声で居場所のあたりをつけます。前庭にある大きな木々の一本に近づき見上げてみると、木の葉に隠れて小さな人影が見えました。
 か細い声は、そこから落ちてきます。

「……あの……こんなところからで……ごめんなさい……」

 わたくしはくすくす笑いました。

「いいんですよ。それよりよく勇気を出して他の修道女に話しかけてくれましたね」
「……だって、お姉さんを呼んでほしかったんです……」

 人影は一段階低くまでおりてきます。

 ようやく姿が見えました。ローブを着込んだ十三歳の男の子です。蒼い髪は短く切りそろえていますが、前髪は伸ばして目を隠しています。それでどうやって物を見ているのか、わたくしはずっと疑問なのですが。

 カイ・ロックハート様は勇者アレス様の一行の一人。ご一行の中で、わたくしが唯一以前から知っている人物です。極度の人見知りですが、とても優しくいい子なんですよ。

「今日はどうなさったのですか?」

 わたくしは上を向きながら問いました。ちょっと首が疲れます。

「は、はい……ええと……ヒィィィッ!」

 突然カイ様は悲鳴を上げて、がさがさと上のほうへ登っていってしまいました。
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