託宣が下りました。
 宮廷魔術師、という職があります。聞いて名のごとく、王宮に雇われている魔術師の方々です。
 実はカイ様はそれにあたります。弱冠七歳で宮廷魔術師となり、十歳のときに勇者様の旅に加わったそうです。

 そんなわけで、今では魔物討伐に忙しいとは言え、カイ様は王宮に頻繁に出入りします。そのため王宮の話にはとても詳しいのです。

 何でも人に会わないよう陰や隙間を選んで移動しているうちに、見たり聞いたりしてはいけないものに触れ合ってしまうのだとか。
 ……早いうちにその習慣は直したほうがよいと思うのですが。

 いえ、そんなことは今は横に置いておきます。

「託宣が無効? どういうことですか?」

 わたくしは声に動揺がにじむのを隠せませんでした。

「あ、あの託宣は一度、公にされているはずです。今さら無効なんて」

 星の託宣は、星祭りの日に下されたあと、王宮によって公式に広められます。
 今回もそう。だから国民の中で託宣の内容を知らない者はほぼいないのです。

 一度公表された託宣が無効になるなど――聞いたことがありません。

「実は、過去に一度あったんです」
 カイ様は本当に申し訳なさそうに言いました。「――星の巫女が、自分自身のことを託宣で告げたことが」
「え……?」

 そんな事例はあったでしょうか。覚えがなくて、わたくしは勉強不足かと焦りました。
 「知らなくて当然です」とカイ様の口元が苦笑しました。

「そのときは即却下され、なかったことにされたんです。そのときの巫女の託宣はこうでした。『この国の王子と自分が結ばれ、子を成すだろう』」
「……」
「無効になった理由は、その巫女が以前から王子を思慕していたことが修道院から密告されたためです」
 カイ様は静かに言いました。「……ただし、真偽のほどは分かりません」

「そんな」

 わたくしは息を呑みました。

 そんな出来事があったなんて。王子を慕っていたことが本当かどうか分からないまま、その託宣は否定されてしまったなんて。

「それで……その巫女はどうなったのですか?」
「……」

 カイ様の長い前髪が揺れました。彼は、顔を伏せたようです。

「……国を追われました。今は隣国にいると聞いています」
「―――」
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