託宣が下りました。
魔物として叫んでいるのではない。アルテナ自身の声が混ざっているように思えた。
彼女の意識が残っているのなら、なぜ逃げようとする?
ヴァイスはアルテナの行動をつぶさに思い返し、理由をさぐる。
そうーーそうだ。
最初に様子がおかしくなったころ――彼女はヴァイスの首をしめようとしたことがある。
(そうか)
おそらく彼女はヴァイスを再び殺そうとすることを恐れているのだ。
そう思うと、どうしようもないほど愛おしさがこみあげた。こんな状況になってさえ、彼女は他人を傷つけることを嫌がる彼女のまま。
「アルテナ」
魔物憑きとなったアルテナの力は生半可ではなかった。だがヴァイスは決して彼女の体を放さなかった。
アルテナの体は予想通りに傷だらけだ。水の中にいるから止血もできない。その意味でも、このまま長くこの場にいさせるのは危険だった。
(絶対に、助ける)
これは俺のやるべきことだ。この『役目』だけは、誰にも譲れない。
彼女が暴れようとして動くのをいいことに、彼女を後ろからではなく前から抱きしめる。強く。彼女の爪がヴァイスの顔を、首を引っ掻く。おそらく血が流れるほどに深い傷。
だが、痛くなどない。今は彼女のほうがよほど苦しいはずなのだ。