託宣が下りました。

 彼女の黒眼に、今は星の光はない。どこまでも沈むような漆黒がその丸い場所にあるのみ。
 なぜか唇に、血の流れた後があった。魔物との戦いに勝つために、唇を噛み締めたのかも知れない。

 ヴァイスは彼女を強く抱きしめる。

「今、助けるからな」

 そうして、ヴァイスは彼女の唇を唇でふさいだ。

「―――!」

 いっそう激しい抵抗があった。当たり前だ。ヨーハンの言う通り『ここ』が魔物の弱点であるならば、魔物は今何より命の危険を感じているはず。

 何度も唇が外れそうになる。それを、無理やり抱きしめ封じ込めた。

(魔物憑きをはがすには)

「ヴァイス様!」

 ヨーハンの叫び声が上がる。

 唇に、冷たい空気を感じた。アルテナの息じゃない。まったく異質な、触れただけで切れそうな冬の風の冷たさ。

 ヴァイスはそれに――
 歯で噛みついて――
 思い切り引きずり出した。

「………!!!」

 アルテナの体がびくびくと跳ねる。彼女が怪我をしないよう力で押さえ込む。激しく暴れる噛みついた『もの』を決して放さず。渾身の力で引きずり出す。

 憑依型魔物は人間の『内部』を好む。そこから『引き出して』しまえば、本能的に別の体に入り込もうとする。

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