託宣が下りました。

 それでいて、人間の体の外にいる状態では空気のようで攻撃することができない。聖水さえ効かない。あくまで『人間に憑依した状態』でなければ倒せないのだ。

 ――魔物憑きをはがすには、魔物の憑く対象をうつすしかない――

 ゆえに魔物をはがすことよりも、弱点を潰して魔物を消滅させることのほうがよく行われる。

 憑依魔物はより清廉で、(けが)しがいのある存在を望むが、同時により強い存在も望む。そのほうが自分が生きながらえるからだ。

 アルテナよりもヴァイスのほうが力あふれる存在なのは間違いない。そういう意味では、ヴァイスのほうが魔物好みのはずだった。
 ただ、ことはそう簡単にはいかない。

 なぜならヴァイスは、魔物が何よりも苦手とする人間だからだ。

 『生』の明るさを、その身にまとう人間。恐怖という感情からもっとも遠い者。

 だから魔物は必死に抗った。ヴァイスの口から逃げだそうとした。

 ――逃がすものか。

 ヴァイスは奥歯が欠けるかというほどに力をこめて、風のような魔物を噛み締め外へと引っ張り出した。

 せっかくの口づけだったというのに、甘さなどかけらもない。ただ暴れる女と、それを抱きしめる男がいるだけ。

 ヴァイスは必死だった。アルテナを救うために必死だった。
 やがて己の体の中に、冷たい異物が徐々に浸透していくのを感じた。

 冷たくて、重い石のような魔物だった。

 手足がしびれて、うまく動かなくなっていく。

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