託宣が下りました。

 同時に、その身に触れる聖なる水が燃えるように熱くなった。まるで業火に焼かれるように、それは生半可の熱さではなかった。

 アルテナはこの重さ、熱さに()えたのだ。こんなものを抱えたまま、自らの足でこの禊ぎの間にたどり着いた。
 そして、自力で魔物を倒そうとしたのだ。この烈火に焼かれてさえも、逃げ出すことなく。

 魔物が移動するにつれて、アルテナの抵抗がやんでいく。

 ヴァイスの肌をかきむしろうとした指が止まった。ずるりと力が抜けて、彼女の体の横へと落ちる。

 ――全てがヴァイスの中へうつった。

 頃合いをみはからって、ヴァイスはアルテナと向き合う。

 黒い瞳と目があった。もう漆黒の闇はそこにはなかった。

 ヴァイスを、その(まなこ)にしっかりと映して。

「……ヴァイス、様……」

 かすれた声でそう呼び――

 そのまま意識を手放したアルテナの体が、ヴァイスの腕の中から沈み落ちそうになる。

 ヴァイスはそれをしっかりと抱き留めた。

 左手で全裸のアルテナを抱きかかえ、右手を挙げて合図をすると、アレスがヴァイスの剣その他もろもろをカイに押しつけ駆けてきた。禊ぎの水の中へと飛び込むと、ヴァイスたちのところへやってくる。

「……アルテナを、頼む……」
「ヴァイス!」

 アルテナの体をアレスに渡したヴァイスは、ふっと安堵の息を落として目を閉じた。

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