託宣が下りました。
己の体の中で魔物が暴れているのが分かる。周囲の禊ぎの水から、しゅうしゅうと煙が上がる音がする。
「ヴァイス! お前も水からあがらないと……!」
アレスの焦りに、ヴァイスは目を開け、にやりと笑った。
「俺が魔物に乗っ取られたら、お前たちじゃ勝てないかもな?」
「……っ」
「……冗談だ。絶対に押さえ込む。アルテナがやってみせたことだ……俺もやってみせる」
アルテナは魔物を取り憑かせたまま自分の意思で動いていた。
だったら、自分も。
しゅうしゅうとあがる煙を漫然と眺め、体中の痛みをたしかめ、体を燃やすような聖なる水の熱さをたしかめ、ああこれが愛しい人が抱えていた苦しみかと感慨深く思う。
(……アルテナ。よく頑張った)
アレスがアルテナを抱いて先に禊ぎの水からあがろうとしている。
それを見送りながら、ヴァイスはアルテナのことを思う。
彼女はよく、自分には取り柄がないと言った。
だが自分は知っている。彼女にはいつだって、強い芯があったことを。
迷いながら、恐れながら――それでも己のやるべきことを見つけるための行動をやめなかった。彼女はいつだって……強かった。
魔物に取り憑かれた彼女がしたことは、魔物を自分の内の中で倒すこと。
自分以外の被害者を出さないこと。
ほら。