託宣が下りました。
「アルテナ様」
騎士の部屋に入ったとたん、わたくしに声をかけてきたのは当のヨーハン様でした。
わたくしは思わずびくりと体を跳ねさせました。魔物のせいとは言え、彼に唇を奪われ、彼から魔物をうつされたあの感覚は、忘れようにも忘れられるものではなかったのです。
ヨーハン様は、頬に青いあざを作っていました。唇も切れているようです。
誰かに、殴られた痕……?
視線をめぐらせてベッドを見やると、そこに騎士が眠っていました。胸にタリスマンをかけ、周囲にはふしぎな石が置かれています。まじないの一種でしょうか。
わたくしはアレス様に頼んで、もっと騎士の近くに行きました。
騎士は 眠るように目を閉じて、まったく動きません。
……いえ。
体の横に置かれた両手。その指先が、ときどきぴくぴくと動いています。
「……硬化魔物以外の魔物に取り憑かれてこれほど大人しくしていられるのは、ヴァイス様くらいなものでしょうね」
ヨーハン様が言いました。
「……中で、戦っているのでしょう。自分に取り憑いた魔物と」
「………」
わたくしは己が魔物に取り憑いていたときの苦しさを思い出し、騎士にすがりつきたくなりました。