託宣が下りました。
「お父様待って、悪いのは私なのよ、二人を責めないで」
「話は全て向こうで聞く。とにかく出なさい」

 言い捨て、ブルックリン伯爵はさっさと寝室を出て行ってしまいました。

「……あんなこと言って。どうせ話なんてろくに聞かないのよ」
 シェーラは悔しそうに唇を噛みます。「二人とも、ごめんなさい」

 謝らないでと言うつもりでした。けれどわたくしより先に、

「謝る必要はない。俺たちは好きでやっている」

 騎士が胸を張ってそう言ってしまいました。

「……ええと、わ、わたくしも同じ気持ちよ」
「巫女! ようやく心がひとつになったな」
「あああだから先に言われたくなかったのに!」

 シェーラが噴き出しました。良かった、やっと笑ってくれた――。

 騎士を先頭にして、わたくしたちは寝室を出ました。

「でもお父様、どうして帰ってきたりしたのかしら。今日は大切な商談だと言っていたのに」
「ああ。俺もそう聞いていた」
「……騎士ヴァイス。あなたはいったいどこからその情報を得たのですか?」
「家の者から」

 あっさりと騎士は言いました。

「ついでに言えば家の者の話で何が起こっているかは予想がついていた。今夜戻ってきたのは予想外だったが……たぶん俺が雇った家人が寝返ったんだろう。金のためならなんでもすると言っていた」
「そ、そんな人を雇ったんですか?」
「金のために動く人間はわかりやすい。むしろ俺は好んで雇うぞ」

 まあ今回はしてやられたが、と、歩きながら騎士はあごに手をやります。

「とにかく。伯爵は話し合う気なんかないな」
「……!? ど、どうしてそんなことを、」
「つまり」

 大扉を開け、騎士はシェーラの部屋から出ました。
 その手が、「出てくるな」とでも言いたげに、わたくしたちに向かって掌を見せました。

「――こういうことだ」

 オオオオオオォォォォォ!!!

 人の物とは思えぬ咆哮が上がりました。わたくしとシェーラは揃って悲鳴を上げ、抱き合いながらしゃがみこみました。大扉の向こう、妙にゆっくりとした動きで見えたのは、ブルックリン伯爵が化物のように変貌して騎士ヴァイスに躍りかかる姿――

 十本の手の爪が尋常ならざるほどに伸びていました。鋭い刃となって、騎士を狙います。
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