託宣が下りました。
「屋敷の使用人が荒れる理由は相場が決まっている。雇い主に異変があったときだ」
のちに騎士はそう説明してくれました。
「たいがいはそこの主人が病気で倒れたとかなんだが。その場合は執事あたりが使用人をまとめてちゃんと動かすもんだ。だが掃除もおざなりになるほど荒れたままということは……使用人の間に不和が起こっていることが考えられる。そしてそれは、やはり屋敷の主人に原因があることが多い」
屋敷に入るまではまさか魔物だとは思っていなかったんだがな、と騎士は苦笑ぎみに言いました。
「レイリアには分かっていたはずなんだがなあ。それを教えてくれていれば、もっと違ったやり方もあったろうが」
そのことについて、レイリアさんはこう答えました。
「確信のないことは口にしない主義ですので」
……はたして情報屋として正しい姿勢なのかどうかは、わたくしにはさっぱり分かりませんが――。
*
「駄目だ」
ブルックリン伯爵は、にべもなくそう言い捨てました。
「お父様!」
シェーラが憤って立ち上がろうとします。
「シェーラ、落ち着いて……!」
わたくしは必死でなだめました。怒ってしまっては話し合いが進まなくなります。
伯爵と向かい合うようにしてソファに座っているのは、シェーラと騎士、そしてわたくしの三人です。わたくしが真ん中ですので、騎士と隣り合っているのが非常に気になるのですが……今はそれどころではありません。何とかシェーラに集中します。
伯爵に取り憑いていた魔物を倒してから、一晩経ち――。
伯爵からの申し出で、わたくしたちは話し合いの場を持ちました。
お父上の体を、シェーラはとても心配したのですが……伯爵は「大丈夫だ」の一点張り。
お昼の明るさの中で見ても、明らかに顔色が悪いのですが。そこは父親のプライドが許さないのでしょうか。
「お前を無理やり修道院から連れ戻したのは申し訳なく思っている、シェーラ」
伯爵は重々しい声でそう仰いました。「だが、修道院に帰るのは駄目だ。お前は結婚が決まっている」
正しく言うならば、シェーラを修道院からさらえと命じたのは、伯爵自身ではなく魔物だったようです。けれどそれを言い訳にしないということは……たぶん伯爵自身も、「そうしたい」という思いがあったからなのでしょう。
のちに騎士はそう説明してくれました。
「たいがいはそこの主人が病気で倒れたとかなんだが。その場合は執事あたりが使用人をまとめてちゃんと動かすもんだ。だが掃除もおざなりになるほど荒れたままということは……使用人の間に不和が起こっていることが考えられる。そしてそれは、やはり屋敷の主人に原因があることが多い」
屋敷に入るまではまさか魔物だとは思っていなかったんだがな、と騎士は苦笑ぎみに言いました。
「レイリアには分かっていたはずなんだがなあ。それを教えてくれていれば、もっと違ったやり方もあったろうが」
そのことについて、レイリアさんはこう答えました。
「確信のないことは口にしない主義ですので」
……はたして情報屋として正しい姿勢なのかどうかは、わたくしにはさっぱり分かりませんが――。
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「駄目だ」
ブルックリン伯爵は、にべもなくそう言い捨てました。
「お父様!」
シェーラが憤って立ち上がろうとします。
「シェーラ、落ち着いて……!」
わたくしは必死でなだめました。怒ってしまっては話し合いが進まなくなります。
伯爵と向かい合うようにしてソファに座っているのは、シェーラと騎士、そしてわたくしの三人です。わたくしが真ん中ですので、騎士と隣り合っているのが非常に気になるのですが……今はそれどころではありません。何とかシェーラに集中します。
伯爵に取り憑いていた魔物を倒してから、一晩経ち――。
伯爵からの申し出で、わたくしたちは話し合いの場を持ちました。
お父上の体を、シェーラはとても心配したのですが……伯爵は「大丈夫だ」の一点張り。
お昼の明るさの中で見ても、明らかに顔色が悪いのですが。そこは父親のプライドが許さないのでしょうか。
「お前を無理やり修道院から連れ戻したのは申し訳なく思っている、シェーラ」
伯爵は重々しい声でそう仰いました。「だが、修道院に帰るのは駄目だ。お前は結婚が決まっている」
正しく言うならば、シェーラを修道院からさらえと命じたのは、伯爵自身ではなく魔物だったようです。けれどそれを言い訳にしないということは……たぶん伯爵自身も、「そうしたい」という思いがあったからなのでしょう。