託宣が下りました。
「だ、だから! その結婚についてもう少し考えさせてって……!」
「もう二年も時間を与えたはずだ」
「……っ」
「これ以上考えて、どうする。考えたあげく、やっぱり結婚しませんなどと言えると思っているのか?」

 重いため息がひとつ。

「お前の結婚は決定事項だ。考えるのは時間の無駄だ」
「そんな――」

 シェーラが膝の上でスカートを握りしめました。唇を噛んでうなだれます。

(………)

 その隣にいるわたくしは、失望感でいっぱいでした。せっかく魔物は倒せたのに、やっぱり伯爵のお考えは変えられないのか――。

「ブルックリン伯」

 そのとき、騎士がおもむろに口を開きました。

「あなたが焦っていらっしゃるのは何故だ。ミハイル家から婚約の破棄でも言い渡されたのか?」
「……」

 伯爵の冷静な顔に、ぴくりと怒りのようなものが走りました。図星なのでしょうか?
 しかしそれを聞いて驚いたのはシェーラのほうです。ぎょっとした顔で騎士を見て、それからお父上を見ます。

「お、お父様。それは本当なの?」
「……『これ以上長引かせるなら』という話だ」

 渋々といった様子で伯爵は口を開きます。

「別に今すぐの婚約破棄を言われたわけではない」
「……っ」

 シェーラの顔から血の気が引きました。どうやら彼女は、婚約をあちらから破棄されるなど想像もしていなかったようです。

 それでこの反応……シェーラの苦悩の内情が垣間見えるよう。

 わたくしはどう励ましたらいいのかわからずおろおろするばかりでした。

 そもそも、騎士はともかく、わたくしがこの場にいること自体がおかしいのです。わたくしの素性を知ってヘンな顔をした伯爵を、シェーラと騎士が二人がかりで説得してくれたのですが……

 もちろん、シェーラのそばにいたかったに決まっています! けれど実際にそばにいてみると、思った以上にできることがないのです。
 本当に、どうしたらいいのでしょうか?

 騎士が体をそらせるようにして天井を見上げ、首をかしげました。

「しかしマックスのやつが婚約破棄を言い出すとは思えんがなあ。そんなやつじゃない」
「実際にそう言われたのだ。仕方あるまい、ヴァイス殿」

 伯爵は姿勢をただし、シェーラをまっすぐ見ました。
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