託宣が下りました。
「よいかシェーラ。遊ぶ時間はもうしまいだ。これからは大人しく家のために嫁ぐ準備をしなさい」
「……」

 シェーラはうなだれたまま動きません。わたくしはたまらず何かを言おうと、口を開きかけました。

 と――。

 ドアがノックされました。

 伯爵が入室の許しを出すと、入ってきたのは使用人でした。

「失礼いたします、お館様。マクシミリアン・ミハイル様がお見えです」
「――なんだと?」

 伯爵が驚きの声を出し、同時にシェーラがばっと顔を上げ、わたくしの片腕にすがりつきました。

「なぜだ。なぜ突然――」
「それはどういう意味ですブルックリン伯。僕は事前に連絡を入れたはずですよ!」

 使用人の後ろから――

 どかどかと、一人の青年が部屋に入ってきました。いかにもたった今お屋敷に着いたばかりといった服装で、苛立ちもあらわにマントをかなぐり使用人に押しつけます。

 年齢は、たぶんわたくしやシェーラよりひとつふたつ下でしょうか――

 わたくしはたいそう驚きました。
 美しい男の人でした。こんなに顔立ちの整った男性を、わたくしは初めて見ました。

 少し癖のある金髪は優しい色で、甘い顔立ちも相まって全体的に柔らかな雰囲気があります。
 瞳の色は涼やかな蒼。今は険しい色をのせて、わたくしたちを見つめています。そんな顔をしてさえきれい。こんな男の人が世の中にいるなんて。

 しかしわたくしの驚きは、すぐに別の驚きに変わりました。

「シェーラ! やっと会えた……!」

 マクシミリアン様はシェーラに向かって突進――まさに突進しました。
 シェーラは飛び退き、わたくしの陰に隠れようとしました。

「来ないで! 来ないでよマックス!」
「なぜだ!?」

 マクシミリアン様は大仰に両手を広げて嘆きます。

「君はまだ僕に不満があるのか!? こんなに美しい僕に!? これ以上いったい何が必要だと言うんだい!」
「私は美しい男性よりも頼りになる男性が良かったのよ! あんたなんか願い下げよ!」

 シェーラが怒鳴ります。「シェーラ」とお父上がたしなめようとしますが、聞くわけがありません。
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