託宣が下りました。
「僕はミハイル家の跡継ぎだ。金も名誉もあまりあるほどある!」
「ただ長男に生まれただけの男が何を言ってんのよ! 外国語もろくにできないくせに!」
「君がずっとそうやって僕を蔑むから僕だって努力したんだ……! 見ろ、話せるようになった!」

 そう言って彼が突然披露したのはコースドリア州隣国ロマリアの言語。
 ……聞いていると頭痛がしてくるような、文法も発音もめちゃくちゃな代物です。子どもが話したなら褒められますが……たぶん同じだけ勉強した子どものほうがもっと流暢でしょう。

 別に外国語が全てではありません。ですが外国との貿易で栄えるコースドリア州を治める人物がこれでは大問題です。わたくしは頭を抱えました。シェーラの苦悩がだんだん見えてきました――。

「ふん。だがシェーラ、君は僕と結婚するのが運命なんだ。そうでしょうヴァイス様!」

 突然マクシミリアン様は話の矛先を騎士に向けました。

 マクシミリアン様の乱入のせいで騒然としていたお部屋。けれどその中で、一人のんびりとしているのが騎士です。ついていけないだけかもしれませんが。

「うーん……あのなマックス」
「はい、ヴァイス様」

 わたくしはシェーラとともに仰天しました。マクシミリアン様が大人しく返事をしている――!?

「まず先に説明しておくと、ブルックリン伯は魔物に取り憑かれていて、ここ数日の記憶があやふやなんだ。だからお前がこの屋敷に来る予定だったことを覚えていない。ここはまず理解してくれ」

 わたくしはさらに仰天しました。騎士がすごく丁寧に事態を説明してる……!

「何ですって! 伯、大丈夫なのですか」

 マクシミリアン様はすぐさまブルックリン伯爵のほうを向きます。

「ああ……いや、大丈夫だ。すまんな」

 伯爵は騎士に目礼をしました。騎士はうなずいて続けました。

「それにシェーラ殿を修道院からさらったのは伯爵に憑いていた魔物だ。人間に取り憑く魔物は名誉欲金銭欲が異常に強くてな、だからシェーラ殿の結婚を急がせようとしたんだろう。まあ、実はこっそり本体である伯爵の願望も影響していたとしても俺は驚かん」
「……ヴァイス殿」
「これぐらいのことは言われるべきだぞ伯爵。あなたは娘を散々傷つけているんだ」

 騎士はゆっくりソファから立ち上がり、マクシミリアン様の肩を叩きました。
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