託宣が下りました。
「お前もお前だマックス。なぜ婚約破棄など言い出した?」
「――それは――」

 とたん、マクシミリアン様は子どものようにしゅんとしてうなだれました。

「……早く結婚したかった。長く待っていては、誰かに奪われると――」

 わたくしは、腕にすがりついていたシェーラが震えたことに気づきました。
 よくも悪くもマクシミリアン様の一言は、シェーラの心に影響を与えるようでした。

「それに、婚約破棄と言えば少しは真面目に僕とのことを考えてくれるだろうと」
「マックス」
「相手にされていないのは分かっているんです。でも結婚してしまえば同じでしょう?」

 マクシミリアン様は大真面目でした。真剣に、そう考えているようでした。
 騎士は腕を組み、うなりました。

「あのな。本気で惚れているなら待つぐらいしてみせろ。少なくとも俺は待つぞ、何年でも」
「何年でも!? 五年も十年も待てますか!」
「待つさ。彼女の気が変わるまで何年でも――。その間に他の男に取られるなら、それは自分がその程度の男だったというだけのことだ」
「……」

 マクシミリアン様が口をつぐみました。何も言えず、ただ騎士を見つめています。

 気が変わるまで、いつまででも待つ――

「……」

 わたくしの胸にも、何か、ふわりと触れる柔らかな羽根のようなものがありました。なんだかくすぐったいようなふしぎな感じです。

 思わず騎士を見ると、騎士がいつになくまともな男性に見えて、わたくしは思わず見入ってしまいました。

 と、騎士はわたくしの視線に気づいたかのように振り向きました。
 ぐっと親指を立てて、

「と言っても、本音では待つまでもなく惚れさせるからな! そのつもりでいてくれ巫女よ!」

 胸から羽根は吹き飛んでいきました。ああ本当に、どうしようもない人!
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