託宣が下りました。
 結局――

 驚くほど大人しくなったマクシミリアン様を加えての話し合いが始まったのですが、お互いの考えはまったく交わってくれません。

 そんな中、膠着した空気を動かしたのは、騎士ヴァイスの一言でした。

「もう少しぐらい待ってやったらどうだ?」

 それを聞いたとき、伯爵は苦々しい顔で騎士を見ました。

「君に口出しされる筋合いはないのだがね」
「筋合いならあるぞ、シェーラ殿は俺の妻になる人の親友だからな。納得のゆく結婚をしてもらいたい」

 わたくしのほうが騎士の台詞に納得がいかないのですが。

 伯爵はじろりとわたくしを見ました。わたくしは否定しそうになるのをこらえ、微笑んで伯爵を見つめ返しました。今回ばかりは、否定して話を混乱させるのは好ましくありません。

 何より騎士の言葉なら伯爵の態度が違うのは、本当のようです。

「それに俺は納得いかなければ他人事でも大いに口を出すぞ。だってそのほうがすっきりするだろう」

 騎士は清々しいほどに自分勝手な理論を展開し始めました。
 にこにこと楽しそうなのに、有無を言わせません。意外と交渉上手なのかも。

 伯爵の足がイライラと動いています。
 その隣でマクシミリアン様も、不満そうに口をとがらせています。そんな子どもっぽい表情でさえきれいなのはすごいと思いますが。

 やがて、

「シェーラ」

 伯爵は立ち上がりました。

「は、はい。お父様」
「――一年だ。あと一年しか待たぬ。修道院での修行は、花嫁修業だと思うことだ」
「……!」

 シェーラの顔がみるみる明るい色に染まりました。伯爵と同様に立ち上がり、

「いいの、お父様! 修道院に戻っても……!」
「……羽目を外すんじゃないぞ。お前はあくまで将来ミハイル伯爵夫人となる者だ。それを肝に銘じて行動しなさい」
「お父様……!」

 それは伯爵の中で最大の譲歩――。

 期限はたった一年。そして結婚は変わらない。それでもシェーラにしてみれば望外の喜びだったようです。

「アルテナ……! また一緒にいられるわ!」
「シェーラ!」

 彼女が抱きついてくるのを、わたくしは力いっぱい抱きしめ返しました。
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