託宣が下りました。
 それに。

「マックスから毎日手紙の山が来るわ……字がへたくそすぎて読むのに苦労するのよ。しかもおかしなポエムばかり! 全部採点して返してやるわ」

 毎日マクシミリアン様の愚痴を言うようになったシェーラの生き生きとした顔を見ていると……シェーラの相手にマクシミリアン様を選んだ伯爵の気持ちが、少しだけ分かる気がするのです。

 もっとも、あの方が結婚の相手では、シェーラが苦労するのも間違いはないでしょうが……

 シェーラの愚痴をうんうんとうなずいて聞いていたわたくしに、ふとレイリアさんが言いました。

「……のんきにしていていいのですか、アルテナ様」
「え?」

 わたくしがきょとんとすると、彼女は無表情で後を続けました。

「託宣の取り調べ、本当に来ますよ。王宮のやることなので時間がかかりましたが――三日後です」
「……!」

 そうでした。騒ぎに取り紛れてすっかり忘れていました。

 シェーラとともによい一年を過ごすと言っておきながら、そもそもわたくしのほうが修道院にいられなくなるかもしれないのです――。



「巫女ー! 珍しい花はいるかーーー!」

 なぜか塀を跳び越えて庭に躍り出てきた騎士ヴァイスを、わたくしはほうきで“しっしっ”と追い払おうとしました。

「待て待て、せめて花を見てから」
「見ました。きれいですね。帰ってください」
「いやいや少しは苦労を認めてくれ。最近ランドル山に魔物が大量発生したとかでなーさすがに俺もいかざるをえなかったんだそしたら山のふもとに珍しいリリン草が生えていたからぜひ巫女に見てもらいたくて。よい名だろう、巫女の名に似ている上に本当に珍しいんだぞ? 絶滅危惧種だ」
「そんな貴重なものを軽々しく摘んでこないでください!」

 どうりでここしばらく顔を見ないと思いました。魔物退治はけっこうですが、余計なことをしすぎですこの人は!

 ほうきをX字に振り下ろして見せ、わたくしは騎士を威嚇しました。威嚇しながら吠えるように言いました。

「でも騎士ヴァイス! 次に会ったら聞きたいと思っていたことがあるのです……!」
「おお何だ? 俺たちの式の予定か?」
「ブルックリン伯爵たちは、なぜあなたの言うことなら聞くのですか?」

 騎士の戯れ言は聞き流して、わたくしはずっと気になっていたことを問いました。
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