託宣が下りました。
今日は少し冷えるよう。ふと吐いた息が白く染まってびっくりしました。冬はまだ遠いというのに!
「アルテナ」
ふと呼ばれて、わたくしは顔を上げました。
そして、はしたないことですが「あっ」と声を上げてしまいました。
「勇者様……」
「お仕事中すみません」
そこに立っていたのは誰あろう、この国の英雄、勇者アレス・ミューバッハ様。
すらりとした長身の上にのっかった優しげな顔。どちらかと言うと中性的で、髪型や服装次第では女性に見えるかもしれません――背が高すぎますが。
淡い茶髪は大人しく、柔らかい光をたたえた緑がかった瞳さえも控えめです。一目見て、彼が英雄だと気づく人はきっといないでしょう。
「こんな朝に……修道院に何かご用事ですか?」
わたくしはほうきを動かすのをやめて、勇者様に向き直りました。
いや、と勇者様は苦笑しました。
「あなたに会いに来ました。アルテナ」
「わたくし……ですか?」
「ヴァイスがいつもご迷惑をおかけしてます」
頭を下げられ、わたくしは慌てました。
「そんな! 勇者様がお詫びになる筋では……!」
「いや。実は俺たちもあいつの暴走をうまく止められないでいるんです。あいつがしばしば無茶をすることを知っているのに……あなたにはいやな思いをさせます」
「そんな……ことは」
いやな思いでした。とってもいやな思いでした。
けれど、それを勇者様のせいにするつもりは、これっぽっちもありません。
「どうか顔をお上げください。騎士ヴァイスの行動の責任はあくまで騎士ヴァイスにあります。もういい大人なのですから」
勇者様はゆっくり顔を上げ、わたくしの顔をじっと見ました。
そして、もう一度苦笑しました。何だか苦労がにじみでている苦笑でした。
「それもそうですね。でも謝りたかったんです。ヴァイスのことは、他人事ではないから」
「……」
「俺たちは六人で魔王を倒しました。六人いなくては為しえなかった。でもとりわけヴァイスは本当に……本当に重要だったんです」
「勇者様……」
「今でも俺たちは魔物狩りが仕事ですが、そっちに関してもヴァイスの力が大きいですしね」
わたくしはかすかに感動を覚えました。魔王が倒されて一年。それでも消えない絆がここにある……
「アルテナ」
ふと呼ばれて、わたくしは顔を上げました。
そして、はしたないことですが「あっ」と声を上げてしまいました。
「勇者様……」
「お仕事中すみません」
そこに立っていたのは誰あろう、この国の英雄、勇者アレス・ミューバッハ様。
すらりとした長身の上にのっかった優しげな顔。どちらかと言うと中性的で、髪型や服装次第では女性に見えるかもしれません――背が高すぎますが。
淡い茶髪は大人しく、柔らかい光をたたえた緑がかった瞳さえも控えめです。一目見て、彼が英雄だと気づく人はきっといないでしょう。
「こんな朝に……修道院に何かご用事ですか?」
わたくしはほうきを動かすのをやめて、勇者様に向き直りました。
いや、と勇者様は苦笑しました。
「あなたに会いに来ました。アルテナ」
「わたくし……ですか?」
「ヴァイスがいつもご迷惑をおかけしてます」
頭を下げられ、わたくしは慌てました。
「そんな! 勇者様がお詫びになる筋では……!」
「いや。実は俺たちもあいつの暴走をうまく止められないでいるんです。あいつがしばしば無茶をすることを知っているのに……あなたにはいやな思いをさせます」
「そんな……ことは」
いやな思いでした。とってもいやな思いでした。
けれど、それを勇者様のせいにするつもりは、これっぽっちもありません。
「どうか顔をお上げください。騎士ヴァイスの行動の責任はあくまで騎士ヴァイスにあります。もういい大人なのですから」
勇者様はゆっくり顔を上げ、わたくしの顔をじっと見ました。
そして、もう一度苦笑しました。何だか苦労がにじみでている苦笑でした。
「それもそうですね。でも謝りたかったんです。ヴァイスのことは、他人事ではないから」
「……」
「俺たちは六人で魔王を倒しました。六人いなくては為しえなかった。でもとりわけヴァイスは本当に……本当に重要だったんです」
「勇者様……」
「今でも俺たちは魔物狩りが仕事ですが、そっちに関してもヴァイスの力が大きいですしね」
わたくしはかすかに感動を覚えました。魔王が倒されて一年。それでも消えない絆がここにある……