託宣が下りました。
 騎士に対する、伯爵たちの態度――。あれがふしぎでしょうがなかったのです。

 伯爵は騎士に口を出されるのがとても嫌なようでした。ですが、最終的には妥協してくれました。あれはどう考えても騎士の影響だったと、わたくしにはそう思えたのです。

 騎士は最初から、「俺がいれば大丈夫」と言っていました。だからこそ、深夜に忍び込むなんて無謀をしたのだと今ならわかります。……いえこの人はそれがなくてもやりそうですが。

 シェーラも「ヴァイス様がいれば」と言っていました。ですがシェーラの言葉は意味が違う気がしました。シェーラは、騎士が『なぜ』影響力を持つのか知らないまま言っているだけではないか、と。

 だから騎士本人に聞くしかないと考えたわけですが……

「そりゃあ、俺が勇者の仲間だからだな」
 騎士はさっくりと即答しました。「言ったろう? 今でも毎日どこかしらのご機嫌伺いが来ると」

「そ、それはそうですけど――」

 それは魔王を倒してくれた偉大な勇者様一行への感謝の気持ちのはずです。
 ブルックリン伯爵だって、感謝はしているでしょう。国の行く末を考える立場の人ほど強く。

 ですが、だからといって家のことに口を出されるのを許すほどになるとは思えない――

「俺たちの機嫌をそこねたくないのさ、彼らは戦えないからな」
「……! 伯爵たちはあなたや皆さんが牙を向くと考えていると?」
「ちょっと違う。次の魔王が出てきたときに、戦えるのが俺たちしかいないと思っているんだ、彼らは」

 わたくしは――絶句しました。

 今、何と?
 ……次の魔王?

 騎士は手にしたリリン草のピンクの花を指でつつきながら、

「今、魔物が活性化している。原因は分かっていない。分かっているのは、十一年前も同じような状況だったということだ――魔王が現れる直前の、あの時期と同じ」

 俺もよく覚えてる、と懐かしむような目をします。

「昨日まで遊んでいた野っ原が、次の日には魔物の群れに荒らされているんだ。アレスと二人で憤ったものだ。まああいつが心配したのは国の将来で、俺が心配したのは翌日の遊び場をどこにするかだったんだが」
「……それで……」
「それで二人で討伐者(ハンター)登録をした。剣の修業は昔からしていたし、ハンターは性に合っていてな」
「……」
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