託宣が下りました。
「最初に組んだやつは途中で魔物にやられて再起不能になった」

 わたくしは息を呑みました。再起不能――
 いえ。ハンターはいつでも危険と隣り合わせです。命のやりとりくらい、日常茶飯事なのです。

 わかっている――つもりです。

「まあそんな経験を重ねたあげく、自然と集まった六人で戦ったら勝てた。最強の周りには最強が集まるもんだ」

 うんうんと自分でうなずき、騎士は言いました。

「とにかく次にまた魔王が出てくるなら、倒せるのは俺たちしかいない。皆がそれをわかっているのさ」

 だから――国の偉い者ほど、彼らを重要視する、と。

 機嫌を損ねないよう毎日遣いを送り、時には金銀財宝をも送る。

 ――彼らを、戦いにおもむかせるために。

「……なんてこと」

 わたくしは呆然とつぶやきました。

 彼らが魔物討伐に向かったと聞くたびに、のんきに喜んでいましたが……事はそんな軽い話ではなかったようです。

 何より、彼らは命をかけて戦っている。そんな当たり前のことを、わたくしは軽率に考えていた――。

 騎士はリリン草をくるくる回しながら、にこりと言いました。

「だから巫女とは早めに結婚しておきたい。俺も一応、死ぬ可能性があるからな。結婚しておけば未亡人にしないためにますます力が湧く! 人間守るべきものがあってこそ強くなるものだ」
「し、死ぬ……?」

 目まいがしました。途方もない話を聞いている気がして。

 目の前の、この圧倒的な存在感を持つ人が、死ぬ……なんて。
 いいえ分かっています。彼だって人間なのです。ふつうの人たちと同じ人間――。

 ……ときどき人間離れしている気もしますが。

「どうだろう? 少しは心が動くんじゃないか?」

 彼は相変わらずにこにこ上機嫌そうで、自分がとても重い話をしたなど考えてもいないようです。

(心が動く……?)

 いいえそんなこと、とんでもない!
 ――とんでもない!

「もう、無理なんです。騎士ヴァイス」

 わたくしは、ずっと構えていたほうきをゆっくり下ろしました。

「何がだ?」

 騎士がきょとんとした顔になります。わたくしは首を振り、「修道院を出ることになりそうです」と言いました。

「ご存じでしょう? 託宣が無効になったこと」
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