託宣が下りました。
「無効? ああそういえばそんなような話をアレスだかカイだかが言ってきたような」

 ……言ってきたような、で済ましたのですか。まあ想像がつきますが。

「託宣は無効になったのです。ですからあなたとも結婚できません」

 わたくしは騎士を見つめました。
 騎士は――いっそう顔を曇らせて、

「それがどうして俺と結婚できないということになるんだ?」

 わたくしはがくりと脱力しました。

「……あのですね、託宣が無効になった理由をご存じですか。託宣を利用して想い人と結婚しようとした巫女がいたからです。今回、わたくしもそれを疑われました――ですから、この上あなたと結婚することがどれほど外聞の悪いことか、お分かりになりませんか?」

 偽の託宣と言われ――

 白い目で見られることに耐えられたのは、あくまでわたくし自身は託宣に自信があったからです。おかげで今度は騎士との関係に悩むことになってしまったのですが、その代わり周囲の目など二の次でいられました。

 でも――こうして国に託宣を否定されてしまって。

 とっくに巫女としての資格をなくしているわたくしはもう、この王都に居場所がないのです。

「昨日、王宮の方々が来ました。わたくしは取り調べを受けました。偽の託宣ではないと言っても――聞いてもらえなかった」

 ――だから。

 そう告げた自分の声が泣きそうなことに、わたくしは気づいていました。

 必死で我慢しました。よりによって騎士の前で泣くなど、絶対にいやです。でも、……でも、

「巫女」

 落ちていくばかりのわたくしの心を受け止めようとするように、騎士の声が遮りました。

「巫女。だが俺は言っただろう。俺が信じたのは託宣じゃない、あなた自身だと」

 わたくしはうつむきかかっていた顔を上げました。
 騎士が、まっすぐにわたくしを見つめていました。あの強い夕焼け色の瞳で。

「あなたの託宣が本物ならそれでいいし、あなたの嘘ならそれはそれでいい。外聞が悪い? 堂々としていればいい。どうせ人間の興味など七十五日だ」

 重要なのは。いつになく静かな騎士の言葉が、

「あなたは俺を指名した。それだけだ」

 わたくしの胸にすうと忍び入って……
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