託宣が下りました。
第四話 お約束はできませんが、――。
初めて、星の祭壇に登った夜――。
満天の星に見下ろされた瞬間、それまでの醸成された緊張がすべて解け、解放された気分になったのを覚えています。
たくさんの観客が集まっていました。ゆうに千はいたでしょう。その中には大層なご身分の方もたくさんおいでになりました。後ろのほうには、一般人もたくさん。
それらの目が一斉にわたくしを見ていたのです。
普段なら、恐ろしくて逃げ出したくなったに違いないそんな状況も――
ふしぎと、あのときは恐くなかった。
ひざまずき、胸の前で手を組み合わせ、祝詞を捧げ……
偉大なる星の声が聴こえるように、心を研ぎ澄まし。
そして。
――降りてくる。先輩巫女の方々がいつも遣うその言葉は、まさしく真実でした。
わたくしは体の力をぬき、すべてを任せました。降りてきた『何か』が、わたくしの体を使い託宣を告げる。そうとしか言いようがないあの感覚。
体が自分のものではなくなる。口から出る言葉が自分の意図したものではない。
それなのに恍惚として、このままその『何か』に、何もかもを捧げたくなる――。
「騎士ヴァイス・フォーライク、巫女アルテナ・リリーフォンスの間に生まれし子は、国の救世主となるだろう」
観衆がざわめくのが聞こえました。
それでも、わたくしは恍惚としたままでした。自分の口が発した言葉の意味など、そのときのわたくしには分かりませんでした。
夢から醒め、とんでもないことになったと気づいたのは、あの声が聞こえた瞬間――
「ついに俺の子を孕む人が現れたぞ……!」
――あの、どうしようもないほど嬉しそうな声。わたくしを苦悩に叩き落としたあの声が、今でもわたくしの耳から離れないのです。
*
「アルテナ。アルテナ……!」
わたくしははっと我に返りました。
シェーラとレイリアさんが目の前にいました。シェーラが心配そうにわたくしの頬に手を当てます。
「大丈夫? 顔色が悪いわ、また眠れなかったんでしょう」
「そんなことないわよ。大丈夫」
荷造りの最中だったことを思い出し、わたくしは手元の作業に戻ろうとします。
しかし指先がうまく動きません。レイリアさんがぼそっとつぶやきました。
「ごまかすのが下手すぎやしませんか、アルテナ様」
「あんたは黙ってなさい!」
満天の星に見下ろされた瞬間、それまでの醸成された緊張がすべて解け、解放された気分になったのを覚えています。
たくさんの観客が集まっていました。ゆうに千はいたでしょう。その中には大層なご身分の方もたくさんおいでになりました。後ろのほうには、一般人もたくさん。
それらの目が一斉にわたくしを見ていたのです。
普段なら、恐ろしくて逃げ出したくなったに違いないそんな状況も――
ふしぎと、あのときは恐くなかった。
ひざまずき、胸の前で手を組み合わせ、祝詞を捧げ……
偉大なる星の声が聴こえるように、心を研ぎ澄まし。
そして。
――降りてくる。先輩巫女の方々がいつも遣うその言葉は、まさしく真実でした。
わたくしは体の力をぬき、すべてを任せました。降りてきた『何か』が、わたくしの体を使い託宣を告げる。そうとしか言いようがないあの感覚。
体が自分のものではなくなる。口から出る言葉が自分の意図したものではない。
それなのに恍惚として、このままその『何か』に、何もかもを捧げたくなる――。
「騎士ヴァイス・フォーライク、巫女アルテナ・リリーフォンスの間に生まれし子は、国の救世主となるだろう」
観衆がざわめくのが聞こえました。
それでも、わたくしは恍惚としたままでした。自分の口が発した言葉の意味など、そのときのわたくしには分かりませんでした。
夢から醒め、とんでもないことになったと気づいたのは、あの声が聞こえた瞬間――
「ついに俺の子を孕む人が現れたぞ……!」
――あの、どうしようもないほど嬉しそうな声。わたくしを苦悩に叩き落としたあの声が、今でもわたくしの耳から離れないのです。
*
「アルテナ。アルテナ……!」
わたくしははっと我に返りました。
シェーラとレイリアさんが目の前にいました。シェーラが心配そうにわたくしの頬に手を当てます。
「大丈夫? 顔色が悪いわ、また眠れなかったんでしょう」
「そんなことないわよ。大丈夫」
荷造りの最中だったことを思い出し、わたくしは手元の作業に戻ろうとします。
しかし指先がうまく動きません。レイリアさんがぼそっとつぶやきました。
「ごまかすのが下手すぎやしませんか、アルテナ様」
「あんたは黙ってなさい!」