変わることのない、ありふれた日常としあわせ。
「今日どこ行くー?!」
「やっぱ、カラオケ?」
一日全部の授業が終わり、放課後を知らせるチャイムが校内に鳴り響く。
これからどうする?そんな話で一層、盛り上がるのは、いつも一緒にいる十人近くのグループ。
だけど、たまに疲れるんだ。……この環境に、ほんの少し。校舎から出てみんなと一緒に並んで歩いていた。
「あ、結衣。来てるよ」
前を歩く子が後ろを振り向いて、私に話し掛けてきた。
「……本当だ」
校門近くに止まっているのは、いつもの見慣れた車。
「じゃーね、結衣!」
口々に笑顔で手を振る、賑やかなクラスの友達たち。
「うん、また明日ね」
私も手を振ってわかれて、停まっている車の方へと向かった。
助手席のドアを開け、慣れたように車へと乗り込む。
「凌、ごめんね」
「お疲れー」
すぐ隣には、愛しい凌の姿。
……ああ、やっぱり。凌の顔を見ると、安心できる。
「どうだった?学校」
「別に、普通……」
「つか。お前さ、授業中どうせまた寝てたんだろ」
「え!なんでわかんの?」
「顔に、超セーターの跡ついてる。しかも、おでこに」
そう笑いながら、自分のおでこを指差した。
「うっそ、まじで!?」
近くのサイドミラーで、思わず確認した。
「うわ、ほんとだ……」
「ばーか」
隣で彼が、フッと笑った。
「ちょ、これ消えないかな……」
「……なあ、いーの?」
さっきの表情とは打って変わって少し、強張って真剣な表情に変わるのを感じた。
「なにが?」
「一緒に遊び行かなくて」
そんなことを聞かれると、改めてズキン、と心が痛くなってしまう。
「……いいよ」
「……そ」
みんなと遊びたい訳じゃない。
最近はクラスの子たちとも放課後、遊んだりしていないし、元々そういう付き合いが苦手だったっていうのもある。
きっと彼女達の間では〝付き合い悪い〟私のことそんな風に考えてるんだろうな。
そんなことを思いはじめた頃もあったけれど。
……だけど、もういいかな、って。
こうやって、決まって。凌が、会ってくれるから。
それが逆に凌に気を遣わせちゃっているのかな。……わかんないけど。
「今日ねー、カラオケ行くんだって!今週入って何回目?本当みんな元気だよねー!ねぇ、凌もそう思わない?」
「……お前いくつだよ。」
呆れたように凌が笑った。
嗚呼、こんなにもくだらなくて、他愛もない会話で笑いあえて。……ほんとうに。凌がいないと私、駄目だ。
「あ、どっか寄りたい所とかある?なかったらさ俺、……結衣?ちょ、泣いてんの?」
……泣いている?
だけど、たまにあるんだ。知らないうちに。
無意識に涙を流している時が。
そっと指で確かめると、頬をつたるひとすじの涙。
すぐに、セーターの袖で拭った。
「……だいじょぶ、ごめんね」
凌に余計な心配なんて掛けたくなくて無理矢理、笑ってみせた。
「……あんま無理すんなよ」
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