変わることのない、ありふれた日常としあわせ。
彼の部屋に入った瞬間。凌の匂いに包まれる。
ここに来ると、本当の居場所に戻ってきたみたいで落ち着く、物凄く。
「りょ、う……」
玄関の扉を閉めた瞬間に。貴方に抱き着く。
強く、つよく。
壊れるほどに、抱きしめて欲しかった。
「……結衣?」
呼ぶ声も、感じる温もりも。なにもかもが愛しくて。このまま時間が止まってしまえばいいのに。そんなことを思ってしまう。
二人で部屋に入って、寝室へと向かった。
「そういや寒くね?大丈夫?」
「……うん、平気」
「そう?」
凌が、エアコンのリモコンをいじっている間に、私は部屋の無駄に広すぎるベッドに飛び込んだ。
「……結衣」
声がして見上げると。ベッドの軋む音と共に、覆いかぶさってくる凌。
「ちょ……おい、寝んな」
ばしっ、と頭を叩かれる。
「だって眠たい!」
「学校で寝てたんじゃねぇのかよ。」
「……まだ眠たい。ほら今、成長期だから」
「どんな言い訳だよ」
「凌のベッド、超きもちいんだもん。このベッド最高だよね。……でも。ちょっと寂しいかも、広すぎて」
「二人で使うんだからさ。これくらいが、ちょうどいいんじゃん」
俺がそう言うと「そうだね」って結衣が微笑みながら返ってきたけれど。
段々と目がトロンとしてきて。……こいつ、今にも寝そうなんですけど。
そんな彼女の髪をそっと、撫でた。
「ん……っ」
今すぐにでも襲ってやりたくなったけれど。
結衣が俺から離れていってなんて欲しくないんだ。
だから。結衣を精一杯、抱きしめた。
凌の隣が、凌の腕の中がいちばん落ち着く。
……なによりも。
そして凌の腕の中で、私は眠りに落ちた。
「ちょ、……寝るの早くね?」
俺の腕の中で、気持ちよさそうに結衣が眠りにつくのを見送った俺も。いつしか、眠気に誘われる。
……こいつの笑顔を。しあわせを守りたいって、心の底から思ったんだ。
変わらない日常の。なによりも、変わらないしあわせを。