かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
「そうなんだけどね。でも、もういいよ。瑞希さんとは今後話をするつもりもないし、杏奈に話を聞いてもらったらすっきりした。もうなにも思い残すことはないよ」
杏奈が貸してくれたハンカチでもう一度涙を拭うと、少し頼りない笑顔を見せる。
「強がり言っちゃって。あまり顔色がよくないけど、昨日は寝てないんじゃないの?」
杏奈は前の席から手を伸ばし、私の頬をぷにぷにと触りだす。それだけで心が和むから、彼女の気づかいには頭が上がらない。
やっぱり杏奈に話してよかった。
その後はたわいのない話をして、ランチをとって英気を養うとフロアに戻った。
運がいいのか悪いのか、瑞希さんは名古屋での件が落ち着くまでこっちには戻らないとの連絡が入ったのは、それからすぐのこと。しばらくは瑞希さんから電話やメールが来ていたけれど、どれにも応じずにいたらある日突然ぱたりと連絡は来なくなった。
瑞希さんに別れを告げてから一ヶ月半たった今も電話やメールはもちろん、顔を合わすこともほとんどない。時々本社に戻っても専務室にいることが多く、人事課に顔を出すことも少なくなっている。もしかしたら避けられているのかも……なんて思うと切なくなるけれど、自分で蒔いた種なのだから仕方がない。