かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

 瑞希さんのことは、きっぱりと諦めた。もうなんの未練もない。

 心の中ではそう思っていても、実際にはそうでもないみたいで。「あれから食欲もないみたいだし、やっぱり顔色がよくない」と杏奈に心配される毎日。その気持ちはとてもありがたいけれど、今は誰の言葉もちゃんと耳には入ってこない。ただがむしゃらに、仕事に没頭する日々を送っている。

 でも杏奈が言う通り、最近自分でも顔色がよくないと気になっていた。食欲がないせいでバランスのよくない食べ方をしているのが原因だと自分では思っているけれど、最近は特に疲れやすく感情の起伏が激しかったりする。

「今日はちゃんと食べようかな」
 
 あと五分もすれば昼休憩できる時間になる。デスクの上を簡単に片づけると、杏奈を誘おうとおもむろに立ち上がろうとした、そのとき。
 
 急に目の前が真っ暗になって足に力が入らず、ふらふらと浮遊感のようなものに襲われる。こんなところで転ぶわけにはいかないとデスクにつかまろうとしたが一瞬遅く、その場に崩れるように倒れ込んだ。

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