かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
瑞希さんは、これをいつ置いていったのだろう。今日は本社にいたということなんだろうか。
いつもなら杏奈に聞けばわかるのに、今日に限って外に出ている。さすがに他の人には聞けなくて、騒ぐ胸を抑えながら手紙を読み始めた。
葉月へ
葉月がこの手紙を読んでいるころ、俺は新幹線で名古屋に向かっているころだろう。
どうしても君に伝えたいことがあって、手紙を書くことにした。手紙を書くこと自体数十年ぶりのことでうまく気持ちを伝えられるかわからないが、最後まで読んでほしい──。
丁寧な字で書かれた言葉のひとつひとつに、荒波のように荒れ狂っていた心が静かに凪っていくのがわかる。
なにが書かれているのか不安しかないけれど、手紙に示してあるように、どんなことが書かれていても最後まで読もうと心に決める。
葉月に別れを告げられてから今日まで、なにも行動を起こさなかったことを謝りたい。
すまなかった。
葉月がどうして『俺とのことをなかったことにしてください』と言ったのか、どうして『もう二度と構わないで』と言ったのか、この数か月間ずっと考えていた。
本当ならばすぐにでも会いに行って話をするべきだった。でも名古屋での事業がとん挫しそうになって、どうにもうまく動くことができなかった。
こんなことを聞かされても葉月にしてみれば言い訳にしか聞こえないよな。本当にごめん。
今となっては不甲斐ない自分に、どうしようもなく腹が立って情けない気持ちでいっぱいです──。