かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「そんな不安そうな顔をしなくていい。思っていることを全部、俺に話してくれないか?」
 
 瑞希さんはそう言うと、私を抱く腕の力を強める。大丈夫だと言われているみたいで、心が少し軽くなり瑞希さんを見上げた。

「手紙に書いてあったように瑞希さんには婚約者がいると知って、私なんかじゃ敵わない、瑞希さんの隣にいられるのは私じゃないって。そんな人がいるのになんで瑞希さんは私をって、裏切られたような気持ちになってしまって──」
 
 香野さんたちに呼びだされたあの日のことがよみがえり、胸が押しつぶされそうに苦しくなる。

「瑞希さんのことを脅迫してるんじゃないのか、泥棒猫のくせにって言われて、もうなにを信じていいのかわからなくなって……」
 
 次第に鼻の奥がツーンと痛くなってきて、涙が目に溜まる。瞬きをしたら溢れそうで、そっと顔を逸らした。同時に涙が溢れる。

「ごめんなさい、瑞希さんのことを信じることができなくて。やっぱり私なんて、瑞希さんのそばに──」
 
 いられない……そう言おうとした口を、瑞希さんが塞いだ。でもそれはすぐに離れて、眉間にしわを寄せた瑞希さんの顔と対峙する。


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