かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「ありがとうございます。では明日の午後三時に。はい、よろしくお願いします」
 
 スマホを切った瑞希さんは、ホッとしたように息を漏らす。瑞希さんほどの人でも緊張することがあるのだと、少し親近感が湧いてふふっと微笑する。

「どうした?」
「瑞希さんでも緊張するんですね」
「当たり前だ。実家に女性を連れていくなんて初めてのことだからな。その連絡をしたんだ、緊張するに決まってるだろう」
「初めて?」
「ああ、初めてだ」
 
 瑞希さんはそう言って、照れたように頭をガシガシと掻く。少し不貞腐れている顔が、たまらなく愛らしい。

「明日の午前中に東京へ戻る。居ても立っても居られなくて勝手に決めてしまったが、身体は大丈夫か?」
「はい。瑞希さんが一緒なら、大丈夫です」
 
 見つめ合って笑い合い、しばしふたりだけの時間を過ごす。でも内心は穏やかではない。
 
 瑞希さんのご両親に明日会う。早く結婚しろと見合いを勧められていたと、瑞希さんは言っていた。今でもトミタファイナンシャルグループ総裁のご令嬢との結婚を望んでいるとしたら、私は邪魔な存在でしかない。
 
 子供はひとりでは作れないけれど、そのことを反対されたらと思うと不安でたまらない。
 
 でもここで逃げるわけにはいかない。まだ小さいお腹にそっと手を当てる。

 少しだけ、私に力を貸してね──。

 瑞希さんとお腹の子どものためにもちゃんと話をさせてもらって、みんなに祝福してもらえますように……。
 
 心からそう願った。




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