かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
 
 はぁとため息をつくと、ふっと笑った瑞希さんが私の頬をぷにぷにと摘まむ。

「ため息をつくと幸せが逃げるぞ。それに親父は間違いなく、葉月のことを気に入るから大丈夫。俺と親父の女性のタイプは似ているからな」
「そうなんですか? でも、我が社の会長だと思うと恐れ多くて……」
 
 社長のことは知っていても、直接会ったことはない。一代で財を成した凄腕の持ち主と噂で聞いたことがあるけれど、瑞希さんの父親なのだから立派な人に違いない。

「社長と言っても普段は普通の、どこにでもいるような親父だ。だからそんなことは気にせず、葉月はもっと自分に自信を持てばいい」
 
 そうはいっても、すぐに自信なんて持てるわけもなく。でも少しだけ緊張がほぐれてきたのは、私の頬を弄ぶ瑞希さんの手が優しいから。私の緊張を解くためにやってくれているのだと思うと、愛しさが溢れてくる。

「自信はわからないですけど……。はい、頑張ります」
「はは、頑張るか。葉月らしいな。でも無理はしなくていい。俺が隣にいることを忘れるな、いいか?」
「はい」
 
 瑞希さんが運転手に行き先を告げると、タクシーがゆっくりと動き出す。途中、老舗の和菓子屋『文福堂』の豆大福を買ってから瑞希さんの実家とへ向かった。



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