かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「帰りました」
 
 瑞希さんがそう声をかけると、長い廊下の奥からパタパタと足音が近づいてきた。

「お帰りなさい、瑞希。今ちょうど、紅茶のシフォンケーキが焼き上がったところなの。さあ入って。えっと……」
「あ。は、初めまして。野中葉月です」
 
 お母様の目が私に向けられて、慌てて頭を下げた。

「葉月さんっていうのね。可愛らしい。どうぞ、頭をお上げになって。私は瑞希の母で、遊佐景子といいます。さあ、早く上がってちょうだい。みんなでお茶にしましょう」
 
 緊張で張り裂けそうだった胸が、少しだけ緩む。でもホッとしたのも束の間。
 
 廊下の突当りにある、これまた広い三十畳以上ありそうなリビングで待っていたお父様の姿に足がピタッと止まる。
 
 白髪交じりの髪は清潔に切りそろえられているし、体形が若々しいナイスミドル。ソファに座っている姿は威厳があり、その存在感は半端ない。あまりの風格に緊張はピークに達し、身震いしてしまう。


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