かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「なにか言ったらどうだ?」
 
 自分からキスしたくせに、どうして上から目線なんだろう。でもなにか言ったらどうだと言われた手前なにも言わないのもなんだからと、釈然としないまま口を開いた。

「遊佐部長、今のは?」
「キスだな。自分の彼女にキスして、なにか悪いのか?」
「そういうことを言ってるんじゃなくてですね──」
 
 彼女と言われて、動揺してしまう。

「瑞希」
「え?」
 
 瑞希というのは、遊佐部長の下の名前。それは知っているけれど、だからってそれがどうしたというのだろう。
 
 小首を傾げて遊佐部長を見る。すると指先で、おでこをピンと小突かれた。

「いつまで遊佐部長と呼ぶつもりだ? ここは会社じゃないんだ、名前で呼んでほしいと思うのは俺のわがままか?」
 
 そういうこと。確かに恋人同士なら名前で呼び合うのが普通だけれど、私たちの関係はまだ曖昧で。仮に彼氏だとしてもいきなり名前で呼ぶなんて私には無理、少しは猶予がほしいところだ。


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