かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
遊佐部長が自分の身の丈に合わない相手だということくらい、私だってわかっている。恋愛経験がないからといって、そんなことも気づかないほどバカじゃない。
けれど芽生えてしまった恋心は消すことは疎か増すばかりで、経験がないからこそ私には手に負えないのだ。
「どうしたらいいんだろう……」
ひとりごちながら廊下を歩く。同じ階にある専務室のドアが見えると、おもわずタブレットを持つ手に力が入った。ドアの前で胸元を押さえ、深く息を吸って気持ちを整える。今は仕事中だと自分に言い聞かせるとドアをノックした。
「野中です」
中に向かって声をかけると、遊佐部長の返事を待つ。すぐに「どうぞ」と声がして、おもむろに重厚なドアを開けた。
「失礼いたします」
専務室には目をつぶっていてもどこになにがあるのかわかるくらい、もう何度も入っている。慣れた足取りで真っすぐ遊佐部長が待つデスクに向かい、彼の前で会釈をした。