かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「すみません。遊佐さんも濡れているのに」
「だから、俺のことは気にするな。そんなことより、これからどうするかだな」
 
 遊佐さんがそう言うのと同時に、バタバタと足音が聞こえてきて水族館のスタッフが私たちのところに来てくれた。その手には、大判のタオルが二枚握られている。
 
 スタッフの女性に「すみませんでした」と何度も頭を下げられたけれど、こうなることは想定内。わかっていて座ったのは自分たち方だから気にせずにと彼女に礼をして、遊佐さんはタオルだけ受け取ると私の手を握りその場をあとにした。

「濡れた服のままでは風邪をひく」
 
 遊佐さんに手を引かれ、向かっているのは駐車場だろうか。彼の顔を見ればしかめっ面で、なにか怒らすようなことを言ったかとシュンと元気がなくなってしまう。

 繋いでいる手から彼が今なにを考えているのか、わかればいいのに……。

 そんなありもしないことを考えながら前をずんずん歩く遊佐さんに手を引かれ、その後を必死についていく。


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