かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

 入社して二年。人事部のフロアでこんなにのんびりとした時間を過ごすのは初めてで、たまには早朝出勤もいいものだと腕を組んで頷く。まるで天下を取ったような気分になって、くるりと反転するとすぐ近くにある瑞希さんの部長椅子にふんぞり返って座ってみる。

「なんだか、ちょっと偉くなったみたい」
 
 それに、今ここに瑞希さんはいないのに、この椅子に座っていると彼を近くに感じる。昨日の夜まで一緒にいたのに、今すぐにでも瑞希さんに会いたくなってきた。
 
 でも、こんなところを誰かに見られたら……。そう思うと違う意味でドキドキするけれど、始業時間まではまだ小一時間ある。さすがにまだ誰も出勤してこないだろうと高を括った、そのとき。
 
 フロアのドアが開く気配がして、ビクッと肩を揺らすとゆっくり顔を上げた。目線の先に瑞希さんがいて、慌てて立ち上がる。

「お、おはようございます、瑞希……あ、すみません。遊佐部長」
 
 いつも通りにと思っていたのに、頭の中はパニック状態。急に現れるから、声が上ずってしまう。


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