かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる

「ちょ、ちょっと、足が滑りまして……」
 
 そんなわけがない。見れば明らかにわかる嘘をついて、にっこり作り笑いをする。そんな私の頬を、苦笑いした瑞希さんがやんわりと摘まんだ。

「本当のことを言わないと、今ここでキスするけどいいのか?」
「へ?」
 
 おもわず、間抜けな返事をしてしまう。

 突然なにを言い出すかと思ったら、キスするぞって。しかもここは人事部のフロアで、いつ誰が来るかもわからないのに……。
 
 このままでは本当にキスされるかもと、目だけ逸らす。
 
 いや、いくら瑞希さんでもさすがにここでキスはしないはず。いい?なんて鎌をかけて、私の口を割らせようと誘導しているに違いない。
 
 その手には乗りません──心の中ではそう息巻いてみても、実際本人を目の前にしてはなにも言うことができない。
 
 相手は百戦錬磨、有言実行の瑞希さんなのだ。なにを言ったところで勝てる気はしないし、いいように言いくるめられるのがオチのような気までしてきた。
 
 ゆっくり目線を戻してみれば、瑞希さんはなにを考えているのか全くつかみどころない曖昧な笑顔を向けている。目が交わると、タイムオーバーと言わんばかりに彼の顔が近づき始めた。


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