かりそめ蜜夜 極上御曹司はウブな彼女に甘い情欲を昂らせる
「恥ずかしい……」
とぼとぼと力なく歩き、遠回りしてひとつ先の駅へと向かう。歩いている間にもこみ上げるのは後悔ばかり。彼氏といるのに水を差したくないと一度は思いとどめた杏奈への電話を、やっぱり掛けようとバックの中からスマホを取る。
すると瑞希さんから何度も電話が掛かっていて、スマホを持つ手が小刻みに震えだした。よく見るとメールも何件も入っていて、瑞希さんが私を探していることを知るとまた涙が溢れた。
逢いたい──。
瑞希さんの前から自分で逃げ出しておいて、なに勝手なことをと思われるのはわかっている。香野さんのことなんて気にせず瑞希さんとちゃんと向かい合って話をすれば、もしかしたらこの先も彼との未来を築いていけたのかもしれない。
でも瑞希さんはやっぱりアシタホールディングスの御曹司で、その未来に彼のそばにいられるのは私ではない。なんの取柄もない身分不相応の私が彼の隣にいたら、迷惑をかけるだけだ。
瑞希さんからの連絡を絶つように、スマホの電源を落とす。パンプスで走ったからか右足のつま先辺りが痛くて、足を引きずりながら駅へと向かった。